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松山地方裁判所 昭和52年(ワ)264号 判決 1978年6月23日

原告

朝山伸一

被告

山下邦博

主文

1  被告は原告に対し、金六二九万八、九一八円と、これに対する昭和五二年八月三日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを六分し、その五を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

4  この判決は原告勝訴部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金三、五〇〇万円と、これに対する昭和五二年八月三日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  事故(以下本件事故という)の発生

(一) 日時 昭和四九年八月一日午後一〇時三分ごろ

(二) 場所 愛媛県北条市長井方バス停留所南方約二、〇〇〇メートルの県道附近

(三) 車両 普通乗用自動車(愛媛五す四九―四六)

(四) 態様 被告は右車両に原告を乗せ、右県道上を走行中、「速度超過と前方不注視の過失により、運転を誤つて」、右車両を右県道の約五メートル下に転落させた。

2  受傷

原告は本件事故により、第一腰椎圧迫骨折の傷害を受け、後遺症として両下肢運動の全部不能、触覚完全麻痺が残り、性的不能となつた。

3  責任

本件事故は被告が前記車両を運行するに、速度を超過し、前方を注視していなかつた過失により発生したものである。

4  損害

(一) 逸失利益 金二、九四八万六、八七五円

原告は本件事故当時二三歳であり、その就労可能年数は四四年、四五歳の年間平均給与額は金二一四万四、五〇〇円である。

(二) 付添費

(1) 入院期間の添付費 金一〇九万八、〇〇〇円

入院中の家族付添日数 五四九日

単位付添費 一日当り二、〇〇〇円

(2) 将来の付添費 金五〇一万八、七五〇円

原告は現在二六歳、その平均余命年数は四四年であり、前記症状のため、右生存期間中付添介助を要し、その付添介助費は一日一、〇〇〇円である。

(三) 慰謝料

(1) 通常慰謝料 金二〇〇万円

入院期間 昭和四九年八月一日から同五〇年一二月一四日まで

(2) 後遺症慰謝料 金三、〇〇〇万円

原告は前記後遺症のため、自力で走行することができず、労働能力、性的能力を完全に喪失したから、これによる慰謝料は金三、〇〇〇万円が相当である。

5  損害の填補

原告は自動車損害賠償保険による保険金一、〇八〇万円を受領した。

よつて、被告は原告に対し、民法七〇九条により右損害金合計額から損害の填補額を控除した金五、六八〇万三、六二五円のうち金三、五〇〇万円と、これに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五二年八月三日から、支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2については、本件事故により原告が負傷したことは認めるが、傷害の程度は知らない。性的不能の後遺症のあることは否認する。

3  同3、4の事実は否認する。ただし原告が本件事故当時二三歳であつたことは認める。入院期間中の付添は被告の母山下ユリ子が殆んど行なつた。

4  同5の事実は認める。

三  被告の仮定抗弁

本件車両は原告所有のものであり、原、被告との遊びのため松山市伊台方面へ向う途中の事故で、原告が無免許のため、同人の依頼により被告が運転していたものである。

したがつて原告は好意同乗者であり、右の事情があるから、原告に主張の損害があるとしても、減額されるべきである。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因1の事実(事故の発生)は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第八号証、第一三号証、第一四号証の九および原告本人尋問の結果によれば、本件事故により原告が同人主張の傷害を負い、後遺症のあることが認められ、また成立に争いのない甲第四号証、第六、第七号証および被告本人尋問の結果によれば、本件事故現場は湯山、北条線の幅員約五・五メートルの山間部の県道で、約九〇度の典線をなす個所であるが、かかる場所で車を運転するものは極度に減速して安全に通過するべき義務があるところ、被告は減速をせず、従前の速度である時速約六〇キロメートルを維持したまま進行した過失により、ハンドル操作が自由にならず、右曲線個所を曲り切ることができなくて、道路右側(進行方向に向つて)の約三〇メートル下に車を転落させたものであることが認められ、以上の各認定を覆えすに足りる証拠はない。

二  そこで、原告主張する損害について検討する。

1  逸失利益 金八〇一万〇、二一二円

原告が本件事故当時二三歳であつたことは当事者間に争いがない。

本件事故により、原告に重大後遺症のあることは前認定のとおりであり、これは労働能力喪失表(労働基準監督局長通謀昭和三七年七月二日基発第五五一号)の障害等級第一級、労働能力喪失率一〇〇分の一〇〇に相当する。しかし原告本人尋問の結果によれば、原告は上半身による作業は、相当の訓練、技能修得は要するものの、可能であり、すでに印判の製作の技術訓練をしていることが認められるから、本件事故による原告の労働能力の喪失率は八〇パーセントと認めるのが相当であり、右訓練や、希望する職種に就けないことによる労苦は後遺症慰謝料において斟酌すべきものである。

就労可能年数については、原告は六七歳まで稼働しうると推認されるから、本件事故以後の就労可能期間は四四年となる。

ところで、成立に争いのない甲第一四号証の一五と原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時、橋本工業こと橋本清貞方に製缶工として勤務し、月平均金七万二、八〇〇円の給与を得ていたことが認められ、反証はない。原告の給与が勤続年数が経過しても、右金額のままでなく昇給、各種手当の支給などのあることはもとより予測できるのであるが、それがどのような時期にどの程度増額あるいは支給されるものか、その相当程度の蓋然性を認めうる何らの証拠はない。であるからといつて、原告のような場合一般に発表されているいわゆる「賃金センサス」を安易に用いることは妥当ではないといわなければならない。

以上のところから、原告の生活費控除を五〇パーセントとし、中間利息控除につきホフマン係数二二・九二三を用いて計算すると原告が本件事故により喪失した逸失利益は金八〇一万〇、二一二円(円未満切捨)となる。

2  入院添付費 金四二万円

証人山下ユリ子、同朝山敦美の各証言と原告本人尋問の結果を綜合すると原告は本件事故当日である昭和四九年八月一日から翌五〇年一二月二四日まで入院し、その間被告の母である山下ユリ子あるいは他の女性の添付もあり、その外は原告の母が添付をしたが、それも平均すると隔日の添付であつたことが認められ、この事実から原告の入院期間中、その母朝山敦美の添付日数はその三分の一である二一〇日を超えないものと推認でき、反証はない。

そうして、右原告の母の添付による費用は、原告の受傷の程度などからみて、一日金二、〇〇〇円とするのが相当であるから、合計金四二万円となる。

3  将来の添付費 金九九万六、八一五円

将来の添付費については、なるほど原告の後遺症は前認のとおりであり、成立に争いのない甲第一三号証と原告本人尋問の結果によれば、現状以上の治癒は不可能であることが認められる。しかし、証人朝山敦美の証言と原告本人尋問の結果によれば、原告は車椅子に乗り場所的移動は可能であり、また家の二階へもリフトの設置によつて上ることができ、幸い上半身が自由なため、手の届く所に置かれてあれば、食事、着更えなど最少限の日常生活ができないことはないこと、予め準備はなされているものの原告は昼間は単独で日常の用を足していることが認められ、これらの事実によれば、各種設備や原告自身の努力により、近い将来右介助を要しなくなる可能性のあることが推認できる。そうすると、原告は少なくとも退院後三年間は日常生活をする上で家人の介助を要し、この介助費は一日金一、〇〇〇円を下らないものと推認できるから、右介助費は中間利息を控除して金九九万六、八一五円となる。

4  慰謝料 金一、五〇〇万円

原告の受傷とそれによる後遺症の程度、入院期間は前記認定のとおりであり、就労のままならないこと、日常生活が不便であることはいうまでもなく未婚の男性であつた原告が性的能力を欠くことにより将来幸福な結婚生活を送る途を絶されたことによる原告の精神的不安、苦痛は甚大なものがある。これらの事情を考慮すると原告の本件受傷による慰謝料は金二〇〇万円が、後遺症による慰謝料は金一、三〇〇万円とするのが相当である。

三  被告の好意同乗の主張につき検討する。

成立に争いのない甲第七号証、第一〇号証と原、被告の各本人尋問の結果を綜合すると、本件事故車は原告の所有するものであるが、原告は運転免許を持たなかつたこと、本件事故は、当日午後七時ごろ原告が車を運転して(無免許運転)松山市二番町にある深夜飲食店に行つたところ、そこで被告ら数名の顔見知りの者と会い、北条市にいる訴外梶野某のところへ遊びに行くこととなり、原告は本件事故車の運転を被告に頼んだこと、そして梶野の家へ赴いたが、同人がいないため、往路とは違い山間部を抜ける湯山、北条線の県道を帰ることとし、その途中本件事故が発生したこと、右帰途において本件車に同乗していた原告は相当速度を出して運転していた被告に対して特に運転に注意をするなどの指示はしていないことがそれぞれ認められる。右事実によれば原告は被告に対してはいわゆる好意同乗者のうちでも、共同運行者に近い関係にあつたものというべく、右原告の地位と前認定の被告の過失の態様などを彼此勘案すると前記原告の全損害を被告に負担させることは衡平を欠き、その三〇パーセントは被告に請求しえないものとするのが相当である。

四  損害の填補

原告が自動車損害賠償保険による保険金一、〇八〇万円を受領したことは、当事者間に争いがない。

五  叙上の判断によれば、原告の本訴請求は損害賠償金六二九万八、九一八円とこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五二年八月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条第一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩谷憲一)

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